焦燥と希望が絶妙に交じり合った名曲。30代前半のテーマソングと位置付けている曲なので、大事にアレンジしたい。まずは楽曲全体像の分析として、原曲のコード進行やメロディの分析、いろいろなバージョンのアレンジを見ていく。
Contents
原曲分析
背景
ASKA32歳の作品。
前作のアルバム『PRIDE』は名曲揃いで、音楽家としてはそこで満足して良いような気もするけれど、ASKAはその後、半年のイギリス武者修行に出る。そこで制作されたのがアルバム『SEE YA』で、ラストを飾るのが「太陽と埃の中で」。
このあたりから世間で言うところのチャゲアス全盛期が始まり、「SAY YES」や「YAH YAH YAH」につながっていく。(ファン的には全盛期は2000年以降だけれども。)
コード進行分析
細かい進行にはここでは深入りしない。ざっくりと曲の流れを把握するための分析。端的にまとめれば、サビはシンプルで明るいコード進行、その手前のBメロが少し複雑なコード進行で、サビの明るい展開の布石になっている。
全体の構成は一般的で、一番、二番、Cメロ、大サビ。
特徴的なのはBメロ。一番を抜き出すとこんな感じ。
Aメロ → Bメロ → Aメロ → Bメロ’ → サビ
Aメロとサビはシンプルなコード進行で、ダイアトニックコードのみ使われる。一方で、Bメロでは、ところどころ、ダイアトニックコード外のコードが現れる。
また、Aメロはコードの変化の数が少なくて、1つのコードが2小節分続く。一方で、Bメロとサビではコード変化の回数が増えて、1小節内で2回以上のコード変化がある。
ゆったりとしたAメロから入って、印象的なコードのBメロでスピード感を上げ、シンプルなサビでドーンと行く。
また、Cメロもダイアトニックコード外のコードを使い、サビでの明るい展開への布石を打つ。
メロディのタイム分析
タイム分析というのが正確な言葉かどうか分からないけど、音の伸ばし方とか、間のとり方を分析する、そんなイメージ。
細かいことはアレンジ作りつつ言及するけれど、わりと分かりやすいタイムだと言えると思う。
Aメロは、ここで整理したパターンDそのものだし、
Bメロとサビでは、パターンAとパターンCや、その変形が多く出てくる。
アレンジ調査
主要なバージョンは以下の3つ。『STAMP』版が最高に良い。
- 公式
- CHAGE&ASKA『SEE YA』(1990年)の原曲、Popアレンジ
- セルフカバーアルバム『STAMP』(2002年)版、Rockアレンジ
- カバー
- Jonathan Katz『Haven’t You Heard?』(1995年)版、Jazzアレンジ
3つのアルバムでラストを飾るという大曲っぷり。
Jonathan Katz版は無名かもしれないが、当時のチャゲアスプロデューサー山里剛がプロデュースしているので、半分公式ということで取り上げる。
あとは平井堅のカバーがあるらしい(『Ken’s Bar III』限定版、2014年)が、未聴なので省略…。
原曲のPopなアレンジ
編曲はJESS BAILEY。馴染みのない名前だけれど、アルバム『SEE YA』『GUYS』のいくつかの楽曲に参加されている。「no no darlin’」も手がけてるのか!
「Popな」という言葉が正しいか分からないけれど、「STAMP」版との比較でこう呼んでみる。
ゆったりとした16ビートの曲。聴いていてはっきり感じられるのは、8ビートの拍で刻まれるドラムの音。8ビートの表拍で山を迎えて、その裏拍で谷になるようなうねりを感じさせる。対して「STAMP」版は、かっちりと16ビートの拍が聴こえてくる。(ドラム素人の感覚ではそんな気がする)
ホーン隊が随所に出てきて楽曲を盛り上げる。ホーン隊は90年代前半のPopなチャゲアス曲に欠かせない存在だ。
「STAMP」のRockなアレンジ
編曲はASKA with Elder Street Boys。バンドサウンドで最高のダイナミクスを表現した名アレンジ。このダイナミクスはバン・マスの澤近泰輔の技だろうと、個人的には思っている。
普通の曲は、Aメロ→Bメロ→サビの順番で盛り上げていく。そして1番とほぼ演奏の2番を繰り返す。
このアレンジはそうではなくて、1番→2番→大サビの順番で盛り上げる。つまり、1番と2番は全くの別物として演奏されている。
サビは全部で3回登場するわけだけれど、1番のサビは抑えて抑えて演奏されて、2番で少し盛り上がってきて、大サビでガツンと盛り上がる。
アウトロはゴスペル風。バンドの演奏が消えるこの箇所で、ダイナミクスを作り出すのはASKAのメロディ。バックコーラスに対して、半拍遅く入り込むASKA節。ラストの低音から高音へのスウィープもカッコイイ。
Jonathan KatzのJazzアレンジ
Jazz風ではなく、本気Jazzアレンジ。こちらで視聴可。Jonathan KatzはTOKYO BIG BANDで活躍されているそう。
16ビートの軽快なアレンジ。
ピアノがメロディを担当していて、メロディを単音ではなくコードで弾いている。コード進行を活かしたアレンジと言える。上記で見たように、特にBメロが活きる。
とても好きだし、すごく参考になるアレンジ。ただ、それだからこそ生まれる疑問は、原曲の歌詞の焦燥感とか挫折感を、インストでどうやったら表現出来るのだろうか。
アレンジ目標
目標はギターデュオでのアレンジ。
これまでウクレレソロでしかアレンジして来なかったので、メロディを活かしたアレンジとは何か、ということをデュオで学びたい。
『STAMP』版をベースにする。原曲のキャッチーなフレーズ(イントロなど)は、盛り込んでいきたい。
『STAMP』版のダイナミクスを再現するために、Acousphere「Time After Time」のリズムギターのコンセプトをそのまま拝借。最初はフィンガーピッキング、段々とストロークが増えていって、一番盛り上がるところでタッピングハーモニクスを繰り出す、という。
あと、現時点でノーアイディアだけど、歌詞の焦燥感とか挫折感も表現したい。(歌詞の明るいイメージは曲の構成から自然と発せられるだろう、と想定)